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国債発行はどうあるべきか――積極財政と財政運営の未来

「国債発行は悪である」と単純に捉える議論は、現代経済の複雑性を見誤ります。多くの財政健全派でさえ、国債発行を全面的に否定しているわけではなく、「必要な局面ではやむを得ない」という柔軟な立場を取っています。

一方で、積極財政の立場に立つ論者は、景気の下支えや供給力の強化といった観点から、財政支出の拡大とそれを支える国債発行の有効性を訴えています。とりわけ、完全雇用の達成、供給力の向上、インフレ率の健全な維持など、いくつかの経済的制約を前提にしながら、それを補完する手段としての国債発行を位置づけているのが特徴です。

ここで重要なのは、そうした制約条件――たとえば「インフレ率」「完全雇用水準」「供給制約」など――が現実の経済の中でいかに測定・運用可能かという点です。確かに、これらの概念には不確実性や定義の幅があり、一義的な数値を持ち得ない部分もあります。しかしそれは、あらゆる経済政策に共通する問題であり、積極財政に特有の欠点ではありません。むしろ、政策の柔軟性と現場の裁量によって、それらの指標を的確に読み取り、社会に資する財政運営を行っていく姿勢が問われるべきでしょう。

また、「政府支出を拡大すれば経済成長し、税収も増える」とする見方には、短期的な需要喚起や経済の加速効果という面では一定の実証的裏付けがあります。ただし、当然ながら支出の質や供給力との整合性、構造改革との連携が伴わなければ、持続的な成長にはつながりません。積極財政は万能ではありませんが、適切に設計され運用されれば、国家の成長と安定に寄与しうる有力な政策手段であることは否定できません。 一部では、「自国通貨建てであればデフォルトの心配はない」との主張に対し、「それでも市場の反応(インフレ、金利、為替変動)という制約がある」との反論もあります。これは正当な指摘であり、だからこそ財政政策と金融政策の協調的な運営が不可欠となるのです。中央銀行の独立性と政府の財政運営は、いずれも通貨の信認や金融市場の安定と不可分な関係にあります。

また、国際的な協調の枠組み――たとえばIMFやG20、BISなど――との整合性も重要です。とはいえ、国際的な信認の確保は、国内政策を委縮させる理由にはなりません。むしろ、各国が異なる経済状況に応じて最適な政策をとることが許容されるべきであり、日本のように高い国債残高と低金利を両立させている事例こそ、国際社会に向けて新たな財政政策の在り方を提起する素材となり得ます。

日本の累積債務がGDP比200%を超えている現実は軽視できませんが、それをもって直ちに危機と断ずるのは早計です。政府の保有資産や、国内金融機関による国債保有の構造、中央銀行との連携といったファクターも踏まえ、「純債務」や「国債の持続可能性」といったより精緻な視点で評価されるべきです。

今後の財政運営に求められるのは、財政規律の名のもとに単に支出を抑制することではなく、国債発行を含む財政手段をいかに戦略的・柔軟に活用するかという、バランス感覚と構想力です。そのためには、国内経済の実態に即した設計と、国際的な説明責任を果たせる制度設計の両立が不可欠です。

結局のところ、「国債発行は悪か否か」という二項対立ではなく、「どう活用すれば経済と社会に持続可能な利益をもたらすのか」が問われるべきなのです。財政の持続可能性と経済の健全な成長は対立概念ではありません。むしろ、両者をどう調和させていくか――それこそが、これからの日本に課せられた最大の課題なのです。

 
 
 

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